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山形地方裁判所 昭和29年(行)3号 判決

原告 東洋鉱業開発株式会社

被告 山形県東南村山地方事務所長 外二名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人らは「一、(第一次的に)被告山形県東南村山地方事務所長高橋敏夫は、昭和二十九年二月三日原告所有の仙台通商産業局採掘登録番号第三四三号山形県東村山郡山寺地内金銀銅鉱六千六百六十五アール(以下本件鉱区と略称する。)採掘権(以下本件鉱業権と略称する。)につき、訴外藤井福夫になした売却処分の無効なることを確認する。(第二次的に)同被告は右売却処分を取消せ。二、被告藤井和子は仙台通商産業局昭和二十九年二月六日受付番号第六四六号取得者藤井福夫等なる旨の本件鉱業権取得登録の抹消手続をせよ。三、被告藤井和子および同第一鉱業株式会社は仙台通商産業局昭和三十一年十月九日受付第三二二九号取得者第一鉱業株式会社等なる旨の本件鉱業権取得登録の抹消手続をせよ。四、被告藤井和子および同第一鉱業株式会社は原告に対して本件鉱区を引渡せ。五、訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、

一、本件鉱業権は、元原告の所有であつた。

二、被告山形県東南村山地方事務所長高橋敏夫(以下被告地方事務所長と略称する。)は、昭和二十七年四月十一日原告が同二十六年度本件鉱区税(本税および延滞金等)を滞納したために本件鉱業権を差押え(第一次差押)、ついで同二十八年十二月十五日、右二十六年度鉱区税の延滞金等(本税は除く)および同二十七、八両年度鉱区税の本税並びに延滞金等合計金二万九千三百七十円の滞納処分として本件鉱業権を再度差押え(第二次差押)、結局右二十八年十二月十五日付(第二次)差押処分を基礎として、同二十九年一月二十二日訴外藤井福夫に対し本件鉱業権を金三万円で随意売却し、同人は同年二月六日仙台通商産業局受付第六四六号をもつて、これが取得登録手続をした。

三、しかし、被告地方事務所の訴外藤井福夫に対する本件鉱業権の右売却処分には次のような「かし」があるので、当無無効である。そうでないとしても取消さるべきである。

(一)  被告地方事務所長は、昭和二十七年四月十一日右二十六年度本件鉱区税(本税および延滞金等)の滞納処分として(第一次の)差押をなすにあたり、原告に対して、右督促状を送達していない違法がある。

(二)  仮に右督促状が送達されたとしても、同督促状は、納期限を昭和二十六年十二月三十一日と指定して、同月二十四日に発送されている。従つて右指定期限は、右発送日から起算し八日間にすぎないので、国税徴収法第九条「十日間以上の期間をおくことを要す」なる旨の趣意に反し違法である。

(三)  原告は、昭和二十八年十月六日、同二十七年度本件鉱区税(本税)として金一万二千百二十円を送金したところ、被告地方事務所長は、原告の同意なしに同二十六年度本件鉱区税(本税)に充当した違法がある。

(四)  仮に右充当が有効であるとしても、被告地方事務所長は、右二十六年度本件鉱区税(本税および延滞金等)金一万三千二百九円についてした同二十七年四月十一日付(第一次の)差押処分は、右延滞金等金千八十九円が未納のために存続しているにもかかわらず、これを解除する等の手続を経ずに、同二十八年十二月十五日、右二十六年度延滞金等同二十七、八年度本件鉱区税(本税および延滞金等)合計金二万九千三百七十円についての滞納処分として本件鉱業権を二重に差押え(第二次差押)、この(第二次の)差押処分を基礎として、同二十九年一月二十二日本件鉱業権を公売処分に付したことになつている。しかし国税徴収法施行規則第二十九条同法施行細則第十七条の二の反対解釈により、同一物件に対する二重差押は禁止され、かかる場合には交付要求の手続によらなければならない。従つて右公売処分の基礎である(第二次の)差押処分においては、右交付要求の手続によらなかつたことはもちろん、右昭和二十六年度延滞金等の部分については二重差押の違法がある。

(五)  仮りに右交付要求の手続によらなかつたこと等が違法ではないとしても、被告地方事務所長は、昭和二十八年十二月十五日右(第二次の)差押をなすにあたり、これが差押調書を作成せず、従つて同謄本を原告に交付していない違法がある。

(六)  本件鉱業権は、昭和二十九年一月二十二日付公売終了直後随意契約によつて売却されたことになつておるので、これが随意契約を行う旨の公告等の手続を経ていない。しかし右売却処分は、同年二月二日になされたものである。従つて右公告等の手続が必要であるにもかかわらず、これをなさない違法がある。

(七)  本件鉱業権につき、本訴係属後の昭和二十九年八月二十三日原告と訴外篠田鉱業株式会社との間に、本件訴訟において原告が勝訴した場合には金三百万円で同会社が買いうける旨の合意が成立している実状であり、従つて時価三百万円以上の価値があるところ、本件鉱区上に存在する時価三万円相当の鉱石を差押ないし公売処分に付することなく、かかる高価な本件鉱業権を僅か金三万円で売却したのは違法である。

四、よつて原告は昭和二十九年三月八日被告地方事務所長に対し、右売却処分につき異議を申立てたが、同年四月二十七日付で却下され、同月三十日右通知を受領したのである。

五、被告藤井和子は、右訴外藤井福夫の死亡により、昭和三十年三月二十九日本件鉱業権を相続により取得し、同年四月二十六日仙台通商産業局受付第一一一〇号をもつてこれが取得登録をした。

六、被告第一鉱業株式会社は、昭和三十一年十月一日被告藤井和子との譲渡契約に基き、同被告と本件鉱業権の共同鉱業権者となり同月九日仙台通商産業局受付第三二二九号をもつて、右登録手続をしたうえ、本件鉱区を占有し、使用収益している。

しかし、前記のかしに基き、本件鉱業権に対する前記売却処分が無効ないし取消される以上、これが有効なることを前提としてなされた右各登銀も抹消されなければならず、かつ本件鉱区を占有し使用収益することはできない。

よつて、被告地方事務所長に対しては、前記売却処分の無効なることの確認または取消を、被告藤井和子に対しては、仙台通商産業局昭和二十九年二月六日受付番号第六四六号取得者藤井福夫等なる旨の本件鉱業権取得登録の抹消を、同被告並に被告第一鉱業株式会社に対しては、同局昭和三十一年十月九日受付第三二二九第取得者第一鉱業株式会社等なる旨の本件鉱業権の取得登録の抹消および本件鉱区の引渡を、求めるために本訴請求におよんだ、と陳述し被告藤井和子、同第一鉱業株式会社の本案前の抗弁に対し被告藤井和子らに対する本訴請求と、被告地方事務所長に対する請求とは関連があり、さらに、民事訴訟事件と行政訴訟事件との併合を禁ずる規定もないから、被告藤井らに対する請求を併合することも許さるべく、仮に許されないとしても手続を分離すれば足る、と答え、さらに

被告らの本案についての主張事実は否認する。と述べた。(立証省略)

被告ら訴訟代理人は、本訴請求のうち被告地方事務所長に対する請求につき主文同旨の判決を求め、被告藤井和子、同第一鉱業株式会社に対する請求につき、第一次的に「訴を却下する。訴訟費用は原告の負担とする」と判決を、また第二次的に主文同旨の判決を求め、

本案前の抗弁(ただし、被告藤井和子、同第一鉱業株式会社に対する請求に関する)として、被告地方事務所長に対する本訴請求は、本件鉱区公売処分の取消を求める行政訴訟である。しかるに被告藤井らは行政庁ではない。従つて同被告らに対する本訴請求は不適法であつて訴を却下さるべきである。と述べ、

本案につき答弁として、

「原告の主張事実中、本件鉱業権が元原告の所有であつたこと、被告地方事務所長は昭和二十七年四月十一日原告が同二十六年度本件鉱区税(本税および延滞金等)を滞納したために本件鉱業権を差押えたこと(第一次差押)、右差押にあたり納期限を同二十六年十二月三十一日と指定した督促状を、同月二十四日に発送したこと、原告は昭和二十八年十月六日同二十七年度本件鉱区税(本税)として金一万二千百二十円を送金してきたところ、被告地方事務所長はあらかじめ原告の同意をうることなく、右送金をもつて同二十六年度本件鉱区税(本税)に充当したこと、しかし同年度右延滞金等が未納のため右差押を解除しなかつたこと、同二十九年一月二十二日本件鉱業権の公売終了直後同鉱業権を訴外藤井福夫に金三万円で随意契約により売却し、同人は同年二月六日仙台通商産業局受付第六四六号をもつてこれが取得登録をしたこと、右随意契約を行う旨の公告等の手続をしていないこと、被告藤井和子は、同三十年三月二十九日右藤井福福夫が死亡したので本件鉱業権を相続により取得し、同年四月二十六日仙台通商産業局受付第一一一〇号をもつて取得登録したこと、被告第一鉱業株式会社は同三十一年十月一日被告藤井和子との譲渡契約に基き同被告と本件鉱業権につき共同鉱業権者となり、同月九日同局受付第三二二九号をもつて、右登録手続をしたこと、被告藤井和子および同第一鉱業株式会社は本件鉱区を占有していること、原告は昭和二十九年三月八日、被告地方事務所長に対し、右売却処分につき異議申立をしたが、同年四月二十七日付で却下されたことはいずれも之を認めるが、その余の事実は否認する。すなわち、

(一)  原告は地方税法第百九十条所定の納税管理人の申告をしていなかつたので、被告地方事務所長は、昭和二十六年十二月二十四日原告の商業登記簿上の本店所在地たる大阪市東区伏見町一丁目三番地原告宛に同二十六年度本件鉱区税(本税および延滞金等)の督促状を郵送したが返戻されておらず、かつその後同所宛に郵送した同二十七年度本件鉱区税徴収令書等が到達しているのであるから、右督促状も送達されたものと推定さるべきである。

(二)  地方税法第百九十八条、山形県々税条例第二十五条によれば督促状の納期限の指定は十五日以内と規定されておるにすぎず十日以上なる旨の定めがないから、八日間の納期限を指定しても違法ではない。

(三)  原告は、昭和二十七年度本件鉱区税(本税)を送金する当時すでに同二十六年度分が未納になつていることを知つており、かかる場合には徴税実務の取扱上、納期の早く到来した分に充当するのが通常であり、かつ差押の基礎となつている滞納分に充当することが滞納者にとつても利益であるので、右二十七年度本件鉱区税(本税)分を同二十六年度分に充当し、その旨を原告に通知したが、当時原告は右措置に対して何らの異議を申立てなかつたので右充当は違法である。

(四)  被告地方事務所長は、昭和二十七年四月十一日、同二十六年度本件鉱区税(本税および延滞金等)金一万三千二百九円についての滞納処分として本件鉱業権を(第一次的に)差押えたが同差押処分を利用して、その後の右延滞金および本税等の滞納処分を進めようとの意図の下に、同二十八年十二月十五日同二十六年度右延滞金等、同二十七、八両年度本件鉱区税(本税および延滞金等)滞納額合計金二万九千三百七十円につき、追加差押(いわゆる第二次差押)の形式をとつたのである。そして右二十七年四月十一日付(第一次の)差押を基礎として本件公売手続を進めたのである。また右追加差押における滞納額にすでに差押ずみの右二十六年度延滞金等の一部金千八十九円を包含せしめたのは、同年度本税は納入されたが、右延滞金等については未納なることを明かならしめるためである。ところで国税徴収法施行規則第二十九条等所定の交付要求手続は、他の徴税機関等がすでに滞納処分その他の事由に基いて差押処分をしている場合に関するものである。従つて交付要求をなす機関と之をうける機関とが同一の場合には新滞納処分につき、さらに追加差押の形式をとり、これが差押調書を作成し、その謄本を滞納者に送付しても交付要求と同一の効力を有するものと解すべきである。

(五)  右追加差押調書は、昭和二十八年十二月十五日に之を作成し同日その謄本を原告の前記住所宛に郵送したが、返戻されず、また前記のように、この前後に同所宛の郵便が原告に到達している以上、右謄本は原告に送達されたものと推定すべきである。

(六)  本件鉱業権の差押は、昭和二十六年度の前記鉱区税滞納のためになされ、同二十七年四月十一日仙台通商産業局において、右差押の登録がなされ、同年四月十五日原告に対し右差押の通知をなし、同年四月十七日見積価格金三万円として公売公告をし、さらに同年四月二十二日付山形新聞に掲載し、同月二十八日第一回の公売を執行したが買受人がなかつたので、同二十八年二月二十三日、同年三月二十五日に第二、三回の公売をそれぞれ執行したが、なおかつ買受人がなかつた。それで同二十九年一月十日付山形新聞に第四回目の公売公告を掲載し、同年一月二十二日午前十時から右公売を執行したが之また買受人がないため、その手続を終了したところ、同日正午ごろ、訴外藤井福夫の代理人折居哲哉から買受の申込みがあつたので、随意契約によつて、右見積価格金三万円で売却する旨の合意が成立し、右代金を同年二月三日に受領するものである。従つて右売却にあたり、随意契約を行う旨の公告等は不要であり、これをしなかつたことは違法ではない。

(七)  原告と訴外篠田鉱業株式会社との間に本件鉱業権を金三百万円で売買する旨の契約が存するとしても、同契約においては何等契約金の授受もなく、右買受人において一度も現地調査をしないで取引しており、かつ右篠田鉱業株式会社は山形県に対し昭和二十八年度分以降の鉱区税金三十二万一千八百円を滞納している現状であり、また真実本件鉱業権が三百万円以上の価値を有するものとすれば、原告において僅か三万円程度の滞納税金は直ちに納入してその権利の保全を図るべき筈である。従つて右契約は本件鉱業権の価値を過大評価させるための仮装の行為に外ならない。なお本件鉱区上に時価三万円相当の鉱石が存在するとしても右鉱石の差押においては、必ず立会人および保管責任者を選定して右保管を託する等公売手続を完了するまでに多額の費用(容器費、整理人夫費、輸送費、通信費、保管費)等を要するのみでなく、差押後これが紛失する可能性も多く、結局本件滞納処分のために差押えるには不適当であり、他に差押うべき物件もないので本件鉱業権を差押えるに至つたものである、」と陳述し、

さらに主張として

仮に原告が昭和二十七年度分と指定して送達して来た本件鉱区税を被告地方事務所長において同二十六年度分に充当したことが許されないものとしても、結局書類の記載上、右昭和二十六年度分を同二十七年度分と書替え訂正することによつて実質的には何らのかしもないことに帰するので、被告地方事務所長の右充当行為も本件滞納処分の無効または取消事由にはならないと述べた。(立証省略)

理由

先づ被告事務所長に対する請求について判断する。

一、(第一次)差押の前提となつた督促状の送達について、

(1)  本件訴状、同記録添付の原告代表者資格証明書並びに公務員が作成したと認められる乙第三号証、同十一号証の一、二(督促状発信簿)の記載および証人小笠原正男の供述(第一、二回)によれば、

原告の本店所在地は、登記簿上大阪市東区伏見町一丁目三番地であること、被告地方事務所長は右事務所宛に昭和二十六年十一月十七日、同年度分本件鉱区税徴税令書を郵便で発送したところ、これが返戻せられないのに同税金も納付されなかつたので、同年十二月二十四日同所宛に右鉱区税に関する督促状を郵便で発送したがこれ亦返戻せられなかつたことが認められ、これを左右するに足る証拠はない。

(2)  次に成立に争いない甲第一号証の一、乙第十号証の一、二の記載および原告代表者の供述の一部によれば、被告地方事務所長が同二十七年十一月十九日右事務所宛に同年度分鉱区税徴税令書を郵送したところ、原告はこれを受領したこと、また同二十八年十月八日、同所宛に右鉱区税領収書を郵送したところ、原告代表者は右事務所々在地とは異る京都市内においてこれを受領していること、さらに成立に争いない甲第二、十三号各証、乙第六号証の一および原告代表者の供述の結果真正に成立したものと認められる甲第五号証の各記載によれば、原告は昭和二十八年十月八日ごろおよび同二十九年三月八日ごろ、被告地方事務所長に対し、原告に対する連絡先を大阪市東区北浜一丁目十六番地武田証券株式会社内あるいは同所日印証券株式会社内と指定していること、他方同二十九年八月二十三日原告が訴外篠田鉱業株式会社と本件鉱業権の売買契約をするにあつては右登記簿上の住所を使用していること、そして公務員が作成したものと認められる甲第三号証(ただし大阪東郵便局外務主事服部光雄作成部分のみ)の記載によれば、同二十九年五月十七日前後を通じて原告の右登記簿上の事務所宛の郵便物はその都度確実に大阪市東区北浜一丁目十六番地武田証券株式会社内に転送されていることが、それぞれ認められ、これを左右するに足る認拠はない。

右認定事実によれば、原告の右登記簿上の事務所に宛てられた郵便物は、その都度大阪市東区北浜一丁目十六番地武田証券株式会社内等の原告代表者の所在地に転送され、原告において確実にこれを受領しているのであるから、右登記簿上の事務所に宛てゝ郵送した右二十六年度本件鉱区税に関する督促状についても、これが返戻せられないこと前記の通りである以上他に特段の事情がない限り、原告に送達されたものと推定すべきであり、これに反する原告代表者の供述部分はたやすく措信しがたく、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

二、右督促状の指定期限について、

鉱区税の督促とは期限を指定してこれが納付を催告し、右期限内に完納しなければ、財産を差押える旨を予告する行為であるから、前記二十六年度分鉱区税を督促するための指定期限は、これが督促状を発する日から起算して十五日以内の相当な期間であることを要する(地方税法第百九十八条第二項山形県々税条例(昭和二十五年八月三十一日公布)第十六条第二項)。そこで右相当な期間とは、国税徴収法第九条第二項に照らし、督促状を発する日から必ず十日以上の日でなければならぬか否かについて案ずるに、右鉱区税においては、納税義務者が山形県内に住所、居所、事務所等を有しない場合には、原告地方事務所管内に住所等を有する者を納税管理人として選定することを要し(地方税法第百九十条前記条例第七十五条)、これが選定は、国税における場合とは異つて強制的でさえある(同法第百九十一条)。そして、右鉱区税に関する督促は、右納税義務者または納税管理人に対して、これが督促状を送達することによつてなされる(同法第十九条)。従つて、かかる山形県内に住所等を有する納税義務者らに対して右督促をするには、指定期限必ずをしも督促状を発する日から十日以上の日とせねばならなぬ必要性のないことは明かである。されば右国税徴収法第九条第二項の趣意は右本件鉱区税に関する督促について適用されないというべきである。ところで本件において右期間が八日間であつたことは当事者間に争いがないところ、成立に争いない甲第一号証の二、三、同乙第六号証の一の各記載によれば原告が二十八年十月六日大阪市所在北浜郵便局から書簡(昭和二十七年度本件鉱区税金)を郵送したところ、同月八日被告地方事務所長においてこれを受領していること、また成立に争いない甲第二、十二、十三号各証の記載によれば、同二十九年二月三日被告地方事務所長が前記登記簿上の事務所宛てに書簡(本件鉱業権公売代金計算書)を郵送したところ、同月十日には、すでに原告においてこれを受領していること、さらに、成立に争いない甲第七号証の記載によれば、同二十九年二月十日付大阪市所在の原告からの書簡を、同月十二日被告地方事務所長において受領しているこがそれぞれ認められ、これを左右するに足る証拠はない。従つて、この様の事情に照らし、右登記簿上の事務所に宛てゝ右督促状を郵便によつて送達するのであつても、右八日の期間は不相当ということができない。

三、昭和二十七年度分本件鉱区税の充当について、

原告が昭和二十七年度分鉱区税(本税)として送金して来た金一万二千百二十円を被告地方事務所長が同二十六年度分鉱区税(本税)に充当するにつき、事前に原告の同意を得なかつたことは当事者間に争いないところ、事後においても、これが原告の同意を得たと認めるに足る証拠はなく、却つて成立に争いない甲第一号証の一および三の各記載によれば、被告地方事務所長は原告に対して右金員を右二十七年度分鉱区税(本税)に充当した旨通知していることが認められ、これを左右するに足る証拠はない。しかし、原告が同二十八年十月六日右二十七年度分鉱区税を被告地方事務所長に対して送金して来た当時は、すでに同被告において右二十六年度分鉱区税(本税および延滞金等)の滞納処分手続を進行させていたことは当事者間に争いなく、さらに右充当により原告に対して、不当な不利益を与えるに至つたと認める事情もないのであるから、原告の同意なくしてなされた被告地方事務所長の右充当行為は必ずしも違法とは認め難くまた本件公売手続を取消すに足るかしということもできない。

四、昭和二十八年十二月十五日付(第二次)差押手続について、

(1)  被告地方事務所長は、昭和二十七年四月十一日前記二十六年度分鉱区税(本税および延滞金等)金一万三千二百九円の滞納処分として本件鉱業権を(第一次的に)差押えたところ、同二十八年十月六日原告から送金された金一万二千百二十円をもつて右二十六年度分本税に充当したが、その余の延滞金等が未納のために右差押を解除しなかつたことは当事者間に争いなく、また、成立に争いない甲第八号証の一、二、同乙第四号証の二の各記載によれば、被告地方事務所長は、同二十八年十二月十五日右二十六年度延滞金等、同二十七、八両年度分鉱区税(本税および延滞金等)合計金二万九千三百七十円についての滞納処分として本件鉱業権を再度(第二次の)差押えたことが認められこれを左右するに足る証拠はない。

(2)  さて、同一鉱業権を二重に差押えることも理論的には不可能ではないが、地方税法第二百三条は、滞納処分の目的たる鉱業権に対し、他の執行機関が現に強制執行をなしているときは、これに対する行政権と司法機関における権限の交錯を生ぜしめないためと執行手続の重複錯雑を避けるために交付要求の手続を認め、反面これが二重差押を禁止したものと解すべきである。それ故同一徴税機関が、同一鉱業権を二重に差押えた場合でも再度の差押手続において実質的に交付要求の要件を充足している場合には、同要求としての効力を認めることが妥当である。ところで前記甲第二号証、同八号証の一、二の各記載によれば、被告地方事務所長は、右再度(第二次の)差押にあたり、これが差押調書を作成しており、また同二十九年二月三日に原告に対し右(第一、二次の)差押の基礎である前記二十六(ただし本税は除く)七、八年度分滞納鉱区税等に本件公売代金を配当した旨の計算書を送達していることが認められる。従つて右(第二次の)差押調書の作成によつて、同調書記載の滞納額につき交付要求がなされたものというべきである。

(3)  次いで右甲第二号証、同第八号証の一、二並びに証人小笠原正男(第一回)の供述の結果真正に成立したものと認められる乙第四号証の一の各記載によれば、前記二十七年四月十一日付(第一次の)差押調書においては、同二十六年度分鉱区税のうち延滞金五百九十円、同加算金四百八十九円計千七十九円、さらに同二十八年十二月十五日付(第二次の)差押調書においては同二十六年度分延滞金二千五百九十円、同加算金六百円計三千百九十円とそれぞれ記載され、結局右金千七十九円の滞納額のために(第一次の)差押と交付要求(いわゆる第二次差押)が重複してなされたような形式であること、しかし右二十六年度分延滞金二千五百九十円、同加算金六百円について配当手続がなされていること、従つて右(第二次)差押調書においては、徴税機関が同一であるために単に滞納額を明瞭ならしめるための便宜上、依然未納のままであつた右(第一次)差押調書記載の右二十六年度分延滞金等金千七十九円をも合して明示したにすぎないことが認められ、同部分についてまでも、さらに実質的に交付要求をしたものと認めるに足る証拠はなく、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

五、(第二次の)差押調書の作成と、これが謄本の送達について、

被告地方事務所長が、昭和二十八年十二月十五日(第二次の)差押調書を作成したこと、そしてこれが交付要求としての効力を有することは前記認定のとおりである。ところで交付要求手続にあつては、同要求書謄本の送達は、その要件ではない。仮に民事訴訟法第五百九十一条あるいは同第六百四十七、八両条等の趣旨に照らし、被告地方事務所長が、原告に対して右交付要求のあつた旨を通知することが必要であり、かつ同謄本の送達がないものとしても、交付要求は、既になされている滞納処分についてこれが売却代金等のうちから、支払交付を受けるにすぎないものであるから、かかるかしは本件公売手続の効力を必ずしも左右するものではない。

六、随意契約を行う旨の公告等の要否について、

徴税機関が随意契約によつて差押物件を売却する場合においても、原則として公売公告に準じてその旨の公告をなすことが必要と解すべきであるが一旦なした公売手続の終了直後になされる随意契約の場合にあつてはその売却条件が当該公告の売却条件に著しく反しないかぎり、公売価格の適正および公売手続の公正を害する恐れがないから、公売手続の迅速、簡易化および同手続費用の軽減等の要求から、これが公告等の手続を要しないものと解するのが相当である。ところで公務員が作成したものと認められる乙第五号証の六、七、八の各記載および証人小笠原正男(第一、二回)の供述によれば被告地方事務所長は、昭和二十九年一月二十二日午前十時から本件鉱業権につき第四回目の公売手続を執行したがこの度もまた買受人がなくて右手続が終了したところ、同日正午ごろ、訴外藤井福夫の代理人折居哲哉がこれを買受ける旨の申込みをしたので、同被告は、右公売にあたつての見積価格金三万円でこれが売却を承諾したこと、そして右代金支払が同年二月三日になされたこと、従つて本件鉱業権は、右一月二十二日公売手続終了直後、随意売却処分に付されたことが認められ、右売却処分が右公売公告の売却条件に著しく反していると認めるに足る証拠もなく、これに反する原告代表者の供述部分はたやすく措信しがたく他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

七、本件鉱業権の価値について、

証人横山英夫、同後藤藤五郎、同丹羽定吉、同二宮謙三、同小笠原正男(第一回)並びに原告代表者の各供述およびその結果真正に成立したものと認められる甲第五号証の記載によれば、本件鉱区は終戦後引続き休山状態になつていたので、本件公売処分のなされるころ、その価格を算定するについては先づ相当巨額の費用を投じてその確定鉱量を確認する必要があること、従つて現状のままではその道の専門家といえどもその価格の評定をなすに由ないものであること、原告は訴外篠田鉱業株式会社との間に、昭和二十八年十二月二十五日あるいは同二十九年八月二十三日これを金四百万円あるいは三百万円で売買する旨の契約書を作成しているがこれには代金を決めたのみで手付金の授受もなければ代金支払の時期方法についても何等触れるところがないこと、さらに、本件鉱業権は、同二十七年四月十五日から同二十九年一月二十二日まで前後四回にわたり見積価格金三万円として公売手続がなされたが、その都度買受人がなかつたことが認められ本件鉱業権が原告の主張するように時価三百万円の価格を有することについては之を認めるに足る証拠はない。尤も証人横山英夫の証言によると本件売却処分当時右鉱区内に既に採掘せられた鉱石(主に銅鉱)約六屯(時価三万円)が存したことが認められるが之を最寄の国鉄山寺駅まで搬出するには合計十数粁の区間を輸送するを要することも右証言によつて明らかであるところ、国税徴取法第二十七条に準じかかる場合の保管運搬費用はその処分代金から処分費用として控除せられるものであるから被告地方事務所長が之を措いて先づ本件鉱区を処分したことを以て失当であるとすることはできない。されば原告の被告地方事務所長に対する主張はいずれも理由がない。

次いで被告藤井和子および同第一鉱業株式会社に対する請求について判断する。

一、本案前の抗弁について、

民事訴訟法第二百二十七条により、行政訴訟手続と民事訴訟手続とは併合することができないけれども、行政事件訴訟特例法第六条第一項は、これが例外として、関連請求に限つて右併合審理を許容していること明かである。原告の被告地方事務所長に対する本件鉱業権の随意契約に基く売却処分の無効確認ないし取消を求める請求は、原告の右被告藤井和子および同第一鉱業株式会社に対する本件鉱業権取得登録抹消および本件鉱区引渡請求の先決関係にあるから、関連請求として両請求を行政訴訟手続において併合整理することは許容されるものと解すべきである。

二、本案について、

原告の被告地方事務所長に対する主張の理由がないことは前記認定のとおりである。従つて、これが理由のあることを前提としてなされた原告の被告藤井和子および同第一鉱業株式会社に対する主張は失当である。

よつて原告の本訴請求は結局理由がないから失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判所 西口権四郎 藤本久 古館清吾)

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